電車に乗っていると、虫が乗り込んできて客が右往左往する光景。うちの近所は山がちなので、頻繁に目撃される光景なのだ。虫は、蛾の仲間だったり、蜂の仲間だったり、カナブンだったり、あまり人気のあるラインナップとはいえない。飛ばない虫の場合もある。クモだったり、蟻だったり、こちらも地味にして不人気なラインナップ。
客が少なければ、キャッチしようと車内を立ち動くことができる。でも、混んでたりするとはずかしいので、虫がうまいこと自分のとこにきたらキャッチしてあげられるのだが、なかなかそううまくいかない。
そういうとき、私は虫を心で凝視(はためには眺めてるくらいのかんじにフリをしている)し、(むしくん、むしくん、きこえますか。こっちへおいで、そっちじゃないよ、こっちこっち。おそとにだしてあげるから。)と念波を送っている。さりげないふりをしながら強く念じるのはけっこう高等テクで、ハッと気づくと両手が膝の上でガチガチに握りこぶしになっていたりして、あわてて緩めたりする。また、手は緩めても、ふと気付くと、息が気功やヨガの最中です、みたいな丹田呼吸みたいになってて、隣の人がいぶかしそうにしていて恥ずかしくなることもある。
念波は通じることのほうが多い。私の下車するタイミングにすーっと来て、手にとまったり、カバンにとまったりする。手でつかまえることもあるけど、スムーズに来てくれたときはとてもうれしい。通じ合ってるジャン!生き物仲間ジャン!わたしたち!みたいな。
なんでそんな念じるとか、つかまえるとか、必死になるのか。それは、大抵殺されるからだ。目の前で踏みにじられ、はたかれ、蹴飛ばされ、動かなくなるのを見るのは最悪の気分だ。見殺しにしている自分がまた最低だ。虫がきらいな人のきもちもわかる。私だって虫によってはゆうきがいるんだ。でも同じいのちじゃないか。それに、虫のほうが人間より先にいたことを忘れてはいけない。人間は虫をもっと尊敬しないと。
こないだ花火を見に相模原にでかけたとき、立ち寄ったコンビニに飛び込んできたのはアブラゼミだった。蛍光灯にゴチーン、ジュース類の冷蔵ガラス戸にガチーン、天井にコーン、壁にカーン、羽音も派手だから店内は一気に賑やかになった。超あせっているのだろう。ジジ、ジジジと洩らす声は「あ、あ、あ、どうしよ、どうしよう」と聞こえる。
雑誌を読んでるお客も、雑誌どころではない。
店員もおびえている。
ああどうしよう。セミ、殺されちゃうかも。助けたい。
しかしそのとき、店員の一人が(ギャル)「(コンビニ仲間に向かって)なによ、セミは何もしないよ、こわくないよ!人間のほうが大きいんだよ!(セミに向き直って)おいで!こっちだよこっちだよ!こっちー!!出してあげるから!死んじゃうよ!」必死に叫んでセミを目で追う。
この時点で、わたしは相当感激していたのだが、ここはひとつ私もレジ前で念じるぞ!とあ~!(せみくん、せみくん、このおねえさんはきみをたすけてくれるよ。わたしもみかただよ。ゆうきをだしてこっちおいで。)次の瞬間、セミがなんとギャルにむかってつっこんできたのだ!!
キャー!
周囲から悲鳴が!
ギャル、真正面から特攻してきたせみくんを、みごとに素手でキャッチング!超~ファインプレイ!!わたしも思わず「うおーブラボーっ!!」とシャウト!そのまませみくんは、お外に持っていかれました。
すぐ戻ってきた店員さんは頬を高揚させながら、何事もなかったかのように私のレジを打ち始めるので、私は「すてきんぐーすてきんぐー!!」と讃えたら、恥ずかしそうにしてました。飛んでるセミをキャッチする瞬間を見られるなんて、もうこの先ないかも。貴重な一瞬だった。
今は季節がら、いのちの移り変わり時期だ。路上にヨロヨロ歩いてる、死の近いカナブンやカマキリ、季節外れの蝶や蛾の幼虫など、気付いたらいそいでても、草はらに戻してやることにしている。
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